芸術起業論

芸術起業論

芸術起業論

本の画像が100の解説よりも雄弁にこの本を物語る。
ネットでは表紙しか見えないが、実物の本だと、背表紙には村上隆さんの後頭部が、背表紙とそでの部分には側頭部が描かれている。
これを見て直感する人もいるだろうが、実際にその文を読んでみても、ホリエモンに非常に近い人物。ギラギラ、という副詞そのものの人となり。
その根底にあるのは強烈な「怒り」なのだろう。村上さん自身も認めている通りに。しかし、そこから生まれるのは、刹那的な欲望を満たそうとか、世の中を害そうとか、そういう「悪意」ではない。むしろ、誰よりも世の中を謙虚に、ポジティブに受け入れようとする強烈な意思だ。そこにはある種の明るささえ漂っている。
そういう彼の生き様に得るところが多い本。
ただ、彼はいわゆる日本のオタク文化を売り物にして儲けていながらも、オタク文化に詳しくはないと告白している。オタクを薄気味悪い奴らだと断じているし、作品も彼自身が作ったわけでなく、造形については人に任せている。そういう意味では、オタクを踏み台にした人物だ、とも言えるだろう。
もちろん、欧米にオタク文化を紹介したという功績もある。この辺は、佐世保バーガーを全国展開した店に似てるね*1
彼の主張はシンプルで、欧米の文脈で日本の良いところを語れば成功できる、というだけを繰り返し書いている。
その中で、特に私が気に入った表現を引用して結びとしよう。

一生の間、歴史を学習し続ければ、どんどん自由になれる。
これは当たり前のことです。
芸術の世界だけではなく、どの業界にもどの分野にも特有の文脈がありますが、
「文脈の歴史のひきだしを開けたり閉めたりすること」
が、価値や流行を生み出します。

*1:地元に断りなく佐世保バーガーを名乗って全国で売っているが、どこでも佐世保バーガー(風のバーガー)が食べられるようになった功績があるとも言える。